「紅葉をね、見に行こうと誘われたのよ」先日、お昼を食べていた時のことである。一緒に食べていた女性が突然言ったのである。聞くと、ある男性に京都に紅葉を見に行きませんか、と誘われたらしい。その女性は少し嬉しそうに微笑んでいた。私は、彼女自身も好意のある男性から誘われたのだと思い、良かったじゃないか、と言ってみた。しかし、その女性は、紅葉には一緒に行くが、その男性からの好意は受けられない、京都でその事をきちんと相手に伝えるつもりだ、と言い出したのである。ほう、そんなもんか、難しいもんだと私は思った。
しかし、である。にも、関わらずである。
その女性は次の言葉で、何を着て行こうかしら、と継いだのだから男の私としてはやってられない。男性同士の内輪話で、意中の女性を誘うにはどうしたらいいか、どうすれば好きな女性に興味を持ってもらえるのか、などはよく出る話題ではあるが、時間をかけてその方法を考えても当の女性は冷たいものである。そこまで考えて、しかし私は男性からこの手の話を聞くことは多くとも、女性から聞かされた経験はあまりないな、と思ったのである。そう考えると女性側からの視点で、今回の出来事がどう見えているのか非常に興味が湧いたのである。しかも男性に誘われて、それを振ろうと言うほどの美人である。後学のためにも知っておかねばならない。
やはりワンピースじゃないか、男性と二人で出かけるなら、と私は相手に提案してみた。好意のある男性の前でないと、あんな動きにくい服は着ないだろう、相手の男性を、期待させて空振りさせてやろう、と私は考えたのだ。いや、正確に言うと、目の前の女性が口に出しにくいであろう願望を代弁してみたのだ。そうね、普段よりは、女性らしい服装をしないとね、と彼女は言った。そして、靴はどうしようかしら、と続けるのだ。華奢なヒールがいいと思うよ、けれど歩きにくくないかしら、そうだけど、ヒールだと階段なんかで男性も手を差し出しやすいし、車の乗り降りも自然と男性がドアを開け、手を出し支えてくれるようになるよ、というやりとりをしたのである。
二人で京都に出かけ、紅葉を楽しみ、普段とは違う距離、雰囲気で彼女と接し、町家を改装した趣のあるお店で食事をしたぐらいのところでその男性は見事に振られるのである。しかも一見すると、早く好意を告げてほしい、と言っているかのような女性に、である。そして女性は言うのだ。「まさかそんな好意を持ってもらってるなんて、少しも気付かなかったわ。ごめんなさい。けれど私より、もっと良い人がいると思うのよ。私はあなたが思っているような人ではないわ。」そして、別れ際「友達として、あなたのことが大切なの、どうかこれまでとかわらず接してね。」これで茶番は完璧である。
相当の美人でないと、こんなことをして許されないだろう。私が女性なら一度くらい、こんなことを言ったりやったりしてみたい。
*次回へ続く